事業承継が日本全体の大きな課題となっている。特に多くの中小・零細企業では、後継者がいない、もしくは育っておらず、このまま後継者不在の状況が続けば、日本全体の企業数は激減すると予測されいている。企業数が激減すること自体に問題があるかどうかはともかくとして、少なくとも多くの雇用を支えている中小零細企業が少なくなることは、人々が働く場を失うことに結びつくことであり、見過ごすことが出来ない事態だ。

そのような状況の中で、M&Aという手段が注目を浴びている。M&Aと言えば、今や大企業だけでなく中小企業においても注目しているビジネス変革の一大手法である。多くのM&A支援会社が出現しており、公的機関も支援策を次々と打ち出している。しかしながら注目を集めるのは、買収金額が数億円以上の比較的大きな規模のM&Aだろう。

日本で今問題になっているのは、従業員数人レベル以下の零細企業・商店であり、典型的には町の商店街の小さなお店、町工場といったレベルだろう。このような小さな企業や商店では、M&Aがいくら社会的な注目を集めても、「座して死を待つ」という状況に変わりはない。

零細企業にこそM&Aの恩恵を

勢いのある会社が、後継者が不在の会社を買収して事業分野を拡充したり、新たに取引先を確保することが多くの人たちが持つM&A のイメージだろう。従業員が数名以下、売上規模も1千万から3千万円程度の零細企業を購入する企業などは存在しないといった常識がある。この常識が覆されつつある。

仮に売上規模が1千万円であれば、純利益はせいぜい2~3百万円以下なので、購入する意味がなくなるというのが常識的な考えだ。確かに年収が2~3百万円なら、アルバイトと変わりがないだろうし、わざわざ手間暇かけてリスクをとる必要はない。

しかし販売する側から見れば、店や会社を潰して得意先に迷惑をかけて、さらに従業員も解雇せざるを得ない事態はどうしても避けたいというの心情だろう。販売して利益を得ることがなくても、とにかく継続することが大事というのが本音かも知れない。要するに、格安で販売して事業継続ができればという本音が見えてくる。ここに、得零細企業にこそM&Aの恩恵を与えるべきという論理が成り立つ。

中高年の企業退職者が後継者に

一方で、買収する側を見ると、先ほど述べたように企業の論理では、零細企業を購入する意味はない。しかし企業論理ではなく、個人の論理に目を向けると可能性が拡がりそうだ。

例えば、このコロナ禍によるリストラによって企業を退職せざるを得なくなった中高年の人たち、あるいは企業を定年退職された60歳以上の人たちなどに目を向けると、異なった視界がひらける。このような人たちは、新たな雇用される側に立って職場を見つけることは容易ではない。しかし、毎日が日曜日という生活に入ろうとも思っていないといった人たちだ。

しかも退職を得たり年金が入ったりしているので、多くの収入を得る必要に迫られているわけではない。買収と言っても、上記のような零細企業・店舗であれば数百万円、場合によっては100万円以下の購入価格があり得る。そうなれば退職金の一部を使って、零細企業・商店を購入するチャンスがあるだろう。販売する側でも売却益を多く得るつもりはない場合が多いはずだ。

そうなると、中高年の退職者が零細企業の後継者候補という枠組みが見えてくる。

売却価格の算定と仲介機関

実際にこのような枠組みを推進するためには何が課題になるだろうか。一つは売却価格の算定だろう。モノの売買で必ず問題になるのが、適正価格の考え方だ。企業の売買は、現物のモノではないので、適正な価格であることがある程度保証されないと、購入する側も販売する側も不安になる。零細企業においては一定の価格算定ルールが必要になる。

しかし、零細企業では算定は比較的単純になるだろう。企業価値の算定は、現有資産と将来価値の合算だからだ。どちらも規模が小さいので算定は簡単で、そのルール化も容易だと思われる。

もう一つの課題である仲介機関に関しては、その出現が待たれる。そのような機関はありそうでないのが実情だろう。あったとしても、その仲介料は格安なので、一般企業が進出することは当面の間は期待できない。

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