コーチングを学び始めた頃に、『傾聴のスキル』を知った。要するに、人の言葉に耳を傾けるスキルということだ。言われてみれば当然のことなのだが、部下を持つ管理職のような立場の人では、職場を目的に向かって動かすには、傾聴のスキルを使って、部下の自発的行動を促すことが、結局は最も合理的な方法だと、コーチングの世界では教えているのだ。

確かにそうだと思う。しかしながら、それだけではない深い意味が、『他人の意見を聴く』にはあるようだ。少し深く考えてみることにする。

傾聴のスキル

コーチングの教えで最も重要だが、見逃されやすいスキルは『傾聴のスキル』だと思う。傾聴のスキルとは、ノン・バーバルな行動によって、話し手が話しやすくなるように促すことだとされる。すなわち、耳、目、心を駆使して真摯な姿勢で聴くという技法を指す。これが簡単なようで、結構難しい。なぜなら、このような基本行動は生来の行動パターンに左右されるからだと思う。例えば、相手の目をあまり見ないことが習慣になっている人にとって、相手の目をじっと見ながら話すことは苦手なことだからだ。

傾聴のスキルが意味するところは、人は真剣に耳を傾けてもらえることが、その人のモチベーションを高めることに繋がるということだろう。確かにそうだと、私の経験から言える。私も若いころは、人の意見を聴かずとも、私自身の判断が正しいし、他人の見解などは参考にしても、それらを採用することはプライドが許さないなどと論外の論理に依っていたと思う。部下の意見は適当に聞いていれば良いなどと思っていたこともあったように思う。要するに、相手がどのように思おうとも、正しいと考えることを貫くべきだということだった。

未だに、人の意見を聴こうとせずに、人の意見を封じるという態度を示す人、特に上司という立場にいる人には多いようだ。しかもそれば無自覚なので厄介だ。

グループは強い

NHKテレビの番組で放映されたことだが、かつてのネアンデルタール人が滅びた一方で、ホモサピエンス(すなわち現人類)は生き延びた理由が説明されたことがあった。ホモサピエンスはネアンデルタール人より後で出現したようだが、ホモサピエンスは後者に比べて体つきは小柄で、脳の体積も小さかったらしい。そんなホモサピエンスが生き延び、ネアンデルタール人が滅びたのは、それらの集団・部族の大きさの違いにあったと類推される。すわなち、ホモサピエンスは100人単位の集団を形成していた一方で、ネアンデルタール人はせいぜい20人程度の集団で生活していたらしい。

この人数に違いが生き延びる上で、決定的な違いになったと言われている。集団のある一人が、例えば狩りの道具を工夫して効率が良い狩猟を始めるとしよう。人数が多いと、その効率が良い狩猟法が、瞬く間に集団内に浸透することになる。この浸透する人数の差が、ネアンデルタール人とホモサピエンスとの生存力の差となったということだった。

要するに、一人よりもグループは強い。また多人数のグループは、少人数のグループよりも強い。なぜなら、一人の優れたアイデアがグループ共有の知恵となって、グループ全体の力となるからだ。ビジネスの世界でも同じであって、一人のアイデアが優れていれば、全員の力を押し上げる。

しかし、優れたアイデアを出す人は、必ずしもリーダーや管理職とは限らない。むしろ一般の人である可能性が高いはずだ。リーダーや管理職の役目は、優れたアイデアを考え出すことを促し、優れたアイデアを育て、全員に浸透させる役目だということを認識しておく必要がある。

学び続ける

他人の意見を聴くという行動の前提は、“学ぶ姿勢”ということだろう。学ぶという意識がなければ、そもそも他人の意見を聴くという行動は生まれない。私たちが研修を行う場合、多くの受講者は聴く姿勢を絶やさない。しかしながら、聴くという姿勢を示さない受講者も少数ながら存在する場合がある。これらの人たちに、いくら優れた講義を行ったとしても、得るものがないのは当然だろう。さらに言えば、私たち講師の話しを聞いているだけでは、ある意味で研修は効果がない。聴くことと学ぶことは異なる。講師の話しを聴いた上で、学ぶことに繋げることが必要となる。学ぶこととは、聴いたことを、自身のことに照らして自分なりの解決法や行動に結び付けることだ。

他人の意見を聴いた上で、自身の行動に結び付けなければ新たな知恵は生まれない。

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