リスクマネジメントに関わる研修を行うことがある。その中で受講者に、「業務上で何をリスクと考えますか。複数を挙げてください」という課題を出す。回答は様々だが、大きく分けて次のようになる。まずは、法的なリスク、次に顧客に関わるリスク、さらに対競合上のリスクだ。

第一の法的リスクとは、いわゆるコンプライアンス上のリスクと考えても良い。法的なものなので、何らかの法的な規制があって、それを故意か故意でないかに関わらず、法律などを犯すか、犯しかねない行動をとることがリスクということだ。法的な規制とは、業界によって異なるだろうし、業界に関わらず企業であれば従うことが当然のものがある。

第二の顧客に関わるリスクとは、法律はとにかくとして、顧客離れに繋がるリスクということだ。顧客対応が不十分で大きなクレーム問題に発展した、悪い評判に繋がりかねないネット上での誹謗中傷があった、取引を打ち切られるような品質上の問題が発生したなどだ。

最後の対競合上のリスクとは、経営上で競合企業との関係に関わるものだ。研究開発を競っていたが競合に先を越された、知的財産権上の争いごとが発生した、談合の問題が発覚したなどだ。

このように整理すると、それぞれのリスク対応の方法が見えてくる。ただし、これらの分類は相互に関連し合ったり、複数の分類にまたがったりすると付言しておく。あくまで、対処法を見い出し、それらリスクを抽出する際の切り口に過ぎない。

コンプライアンス上のリスクへの対応

このコンプライアンス上のリスク対応が最も重要である。というのも、法的な対応や社会規範に照らして遵守しているか、という分かりやすい判断基準を前提にしているため、一旦違反事項が判明すれば、多方面からの批判が集中する可能性がある。一方で、昨今は法的な範囲さえ守れば良いという単純な構図ではなくなっている。要するに、単なる法律だけでなく、企業としての自主的な行動規制や、企業姿勢についても、コンプライアンスの範囲と捉えることが最新の考え方になっている。すなわち、法律だけでなく、法律が規制していない企業行動についても、コンプライアンス上のリスクが存在することを前提にしなければならない。

では、どこまでが許されて、どこからが許されないのか、境界線ははっきりしているのかというと、実にあいまいでグレーな領域も存在する。さらに、5年前は問題とならない行動も、現在は許されないということもあり得る。だから重要であり、かつ対応が困難なリスク管理だと言えるのだ。

このようなコンプライアンス上のリスク対応での要点は、コンプライアンスの中身、事例を広く、かつ深く浸透させることに尽きる。研修会でも良いし、社長から全従業員に「リスクは身近にあり得る」というのメッセージを発するなどの対処が求められる。またこのリスク対応では、法律や社会規範を守るという原則があるため、それらを熟知し自身や自社の行動に照らしてみれば、リスクになり得るかどうかは判断は比較的容易である。

顧客に関わるリスクへの対応

会社の成り立ちは、顧客なくしてはあり得ない。顧客を失うと、会社の存立は難しいという当たり前の事柄を、日頃の業務の繰り返しの中で、ないがしろにしていないだろうか、自問してみる必要がある。多くの人が口にする「顧客第一主義」ということだが、難しい局面は、一方の顧客を重視するあまり、他方の顧客を軽視する対応を採らざるを得ないことだろうか。顧客が重要なことは分かる、しかし二人の顧客の利害が対立した場合には、どちらを優先すべきかの判断が難しい。あるいは、最終顧客である消費者と、当社の直接の顧客である取引先の利害が対立することもあり得るだろう。多くの場合は、あまり深くに考えずに判断してしまうのかも知れない。

このような場合には、一方だけを重視する対応は避けたい。情報は全てオープンに開示して、現状はこのようになっている、したがって当社はこのような対応を採りますと、両者に宣言することができれば万全の対応だと言えるのだが、とっさの場合にこのような対応が出来るだろうか。

対競合上のリスクへの対応

対競合上のリスクとは、純粋に経営問題に帰結する。多くの他企業と競争している企業では、競争に敗れれば、すなわち退場を余儀なくされる。製品開発などで真正面に対峙することを避けるために、他企業が参入していない領域を選び、顧客にアピールするという戦略を選択することもあり得るだろうし、同規模企業と提携して、他のより規模の大きな企業に対抗するなどの戦略を採るかも知れない。

いずれにせよ、これら経営戦略上の選択は、従前から経営上の最大の注目を伴って議論されてきた。現実のビジネスの世界では、多くの経営者が最も注力している分野であるし、学術的にもいわゆる経営戦略論として多くのフレームワークが提案されている。

従って、リスク対応としての「正解は存在しない」といっても過言でない。存在するのは、「正しい結果のみ」ということになる。

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