「世の中は悪い方向に向かっている」という思いを抱いているご同輩は多いのではないだろうか。地球温暖化はますます危険水域に近づいているようだし、社会の分断を促すような発言を繰り返す政治リーダーが多くの国で舵を取っている。また、地球全体を覆うコロナ禍によって、経済での壊滅的破壊だけでなく多くの人命が失われつつある。この世には良いことなど何もない、これからの世界には絶望しか残されていないのではないかと考えても当然だろう。

「昔は良かった」と言うのは、ある一定以上の年齢層の、特に男性に顕著に目立つ傾向らしい。この年齢層に属する僕の実感でも、昔は誰もが生き生きと生活しており、世の中は活気に溢れ、多少の苦しさがあったとしても、貧しくても顔を正面に向けて歩んでいたと思える。でも、これは本当のことだろうか、真実はそうではないのではないか。

ネガティブ本能

『ファクトフルネス』の著者ハンス・ロスリングは、「ネガティブ本能」と名付けている傾向があると論じている。

この本能と称される傾向は次の事実で論証される。すなわち、30か国の人に「世界はどのように変化していると思いますか?」という質問に、「どんどん良くなっている」「どんどん悪くなっている」「あまり変わっていない」という3つの選択肢を用意したところ、世界の大半の人が「世界はどんどん悪くなっている」を選んだというのだ。アジア、欧米諸国、中東の国々でも「どんどん悪くなっている」の数が過半数を超えているそうだ。

しかし、現実はどうだろうか。『ファクトフルネス』によれば、極度の貧困にある人の割合は過去20年で約半分となったと言われる。1800年頃には、人類の約85 %が極度の貧困層だったという。貧困の定義が必要なのだが、ここでは単純に食事にも事欠くということで良いだろう。食事にも事欠くのだから、余暇を楽しむ余裕はもちろんなしと解釈すべきであり、この極度の貧困にある割合が全人口の85%から半分になったということであれば、大半の人は「世界は良くなっている」と実感しても良いはずだ。そのような事実がありながら、実際はそのように思っていない人が大半だということは、何らかのバイアスが働いていると解釈される。

このバイアスの力を、ネガティブ本能と称しているだろう。このことの本質は何だろうか。

人間は過去と将来を比較したがる傾向があり、過去の苦しかったことは忘れがちで、楽しかったことは記憶に長く留めるようだ。僕自身を振り返ると、子供の頃の楽しい思い出は鮮明に覚えているが、苦しかったことはあまり覚えていない。苦しかったことや悲しいことも多くあったはずだが、あまり覚えていない。多分この傾向は、人間として生き抜くための本能のようなもので、悲しいことや苦しいことをいつまでも引きずると、生存そのものに影響を与えるということから生来的に得たものだろうと思う。

この「ネガティブ本能」ゆえに、昔は良かった、楽しかったと思いがちになる。対して、将来は楽しくない、苦しいはずと思い込むようになる。

人間が他の生物と思考面で大きく異なる傾向は、人間だけが将来や未来を考えることだと言われている。他の生物は将来や未来のことを考えて生きてはいないだろう。冬眠する動物が、冬眠前に食物を蓄えておくことがあるそうだが、それは翌年のことを考えたというよりも、生存本能による行動だろう。人間だけが将来や未来を想像する。将来や未来を想像するからこそ、現在と過去を比較して、現在は過去より悪くなっていると感じられるので、現在の延長上にある将来や未来は、現在よりも悪くなると感じるのだろう。

正確に事実を把握する

ネガティブ本能だけに従って考えると、世の中の全てを悲観視してしまう。将来を悲観し、このままではいけない、何とかしたいと考えがちになる。このように考えても、一人では何もできない。したがって、ひどくイライラする。このような考えは、事実を正確に把握していないからだろう。そうならば極力事実に基づいて、物事を考えてみる習慣をつけたい。

日本を取り巻く国際情勢を考えてみると、某国は頻繁に日本近海にミサイルを撃ち込んでいるし、国交がある近隣国にしても、領土侵害に近い行動を繰り返している。このような動向だけを見ていると、日本の主権や領土が侵される、将来は侵略されるのではないかと危惧される向きがあるかも知れない。

でも正確に事実を掴んでおきたい。75年もの長い間、日本はどんな国も侵略していないし、どんな国からも侵略されていない。現実に、どこかの国が日本を侵略したり、攻撃を加えたりすることがあり得るだろうか。現在のような国際協調が進んだ世界では、あり得ないと断言できる。あり得ると発言する人は、ネガティブ本能に捉われていると断言できるだろう。

また、現在のコロナ禍に悲観する向きも多いだろう。でも、過去に多発したパンデミックに比べると、多くの面で軽症だろうということは確かだ。感染者数、死亡者数からいって、過去のスペイン風邪、香港風邪、エイズなどと比べて、決して大きな影響を与えているわけではないし、当時と比べて医療体制や治癒への対策は万全と言えるかも知れない。

事実を把握して正しく対処することが、最も必要なことは当然だと言えるのだ。

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