創業者を支援できない現状を憂う
今の日本の中で経営支援を最も必要としている人・団体はどのような人たちだろうか。様々な考え方があるだろうが、私は“創業者”という人たちだろうと考える。これから創業を志す人たち、あるいは創業して間もない人たちということだ。創業者は経営の経験がない、したがって、これから何を行うべきか、どうすれば良いのか全く暗中模索にあると言える。
先日のことだが、あるルートを介して創業者への経営支援、すなわち経営アドバイスを行った。もちろん、創業者であるので今まで経営を行ったことがない人物だった。その人が迷っているの事柄は多くあるのだが、まずこれから始めるビジネスの料金設定をどのようにすれば良いのか、さらに外部人材を使う際の契約はどのようにすれば良いのか、などという具体的なことだった。もちろん、このような迷い事の中身は創業の業種・業態によって千差万別だし、創業者の事業経験などによっても様々な事柄が想定される。
私がこのような創業者から相談を受ける機会はあまりない。創業塾の講師を務める中で、個別相談会などが設定されていれば、創業者の相談を受けることがある。唯一の機会がこのようなことだろうか。それ以外には全くないと言っても良い。これが、相談者にはコンサルタント料を負担することができない事情があることが最も大きな要因だろう。当然ながら、お金を潤沢に持っている個人や法人が創業を考えることはあまりない。コンサルタントは経営支援を行うことの対価として、報酬をもらうという事業形態だ。したがって支払うお金を持たない個人や法人ではコンサルタントを雇うことは出来ない。
創業者が求める経営支援や経営アドバイスの中身は、あまりに根源的すぎて回答に窮することが多い反面で、経営コンサルタントであれば容易に回答を見い出せることも多い。例えば、創業時期に関する相談では、会社設立の手続きはどうすれば良いのか、あるいは本人に“やる気”がどうなのかが最も重要なので、本人の意思確認だけのアドバイスに完結することもある。それでも、じっくり本人の意向を訊きだす根気が求められる。要するに、創業者へのアドバイスではコンサルタントとしてのプリミティブなアドバイス能力が求められると言っても良いだろう。
経営支援を最も必要としている“創業者”が、経営支援をより多く受けるためにはどうすれば良いのだろうか。少し考察してみよう。
公的機関の役割
公的機関とは、全国にある商工会議所や商工会が代表的なものだ。商工会議所や商工会は会員組織であるので、事業を行っている会社や個人事業主が会員であり、それら会員へのサービス提供を行う組織ということが前提にある。そこでは、会員向けに経営支援する様々な事業形態が用意されているが、残念ながら創業者向けのサービスが用意されているとは言い難い。もちろん、創業塾などを催すこともあるが、あくまで例外的な対応と捉えても良いだろう。
最も身近な経営支援機関としての商工会議所や商工会が、創業塾の開催以外に、拡充した創業者支援に乗り出すことを期待する。具体的には、創業者相談会の定期開催、創業者向け事務所・店舗紹介ネットワークなど様々なことが考えられる。私たちの想定以上に商工会議者や商工会は保守的な体質があるので、新たなことを始めるには組織トップ、すなわち日商や全国連などからの指令が必要となりそうだし、まずは予算化が前提として求められるかも知れない。しかし、商工会議所や商工会の存在意義が問われている現在、何をなすべきか、何が期待されているのかを、今一度議論してもらえればと思う。
金融機関の役割
創業者が金融機関を訪問することは、借入を申し込む際以外にはないだろう。それほど敷居が高いのが金融機関と言える。相手がメガバンクであれば、金融機関自体が全く創業者を相手にしていない。実際に私が創業した際にメガバンクを訪問したが、窓口で全く相手にされなかった経験がある。それでも日本政策金融公庫には、新規創業者融資制度があり、創業者の相談に乗るという形になっている。それでも、数百万以上の借り入れをすることを前提にして、創業相談に乗るということであり、お金の支援に偏っているのが実情だろう。
創業者支援ということでまず思う浮かぶ存在である金融機関には、融資という観点以外に、創業者への経営支援に乗り出すことは無理だろうか。発想を切り替えることは難しそうだが、CSRの観点で持てる資源を創業者に向けていただきたい。
民間の経営コンサルタントの役割
民間の経営コンサルタントと呼ばれる人たちには様々な業務形態、専門領域がある。それでも、創業者支援を専門にしているコンサルタントにはお目にかかったことがない。それは報酬が期待できないゆえだろう。それでも、最も期待できるのが、民間の経営コンサルタントだと思う。
ネット検索で「創業×相談」というキーワードを設定すると、残念ながらほとんどが商工会議所などの公的機関が上位にランクされる。要するに、民間コンサルタントはほとんどこの市場を相手にしていないといことだろう。それは、上述したように、創業者支援では報酬が期待できないということに依っている。この枠組みを変えれば、多くの民間コンサルタントがこの分野に進出するはずだ。
例えば、次のような施策が考えられる。
- 経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士の資格更新要件に、創業者支援の回数を加える
- 創業者支援を行い、成果を上げたコンサルタントには何らかの公的支援を行う
- 創業後の出来高払いの報酬制度を打ち出す
意欲ある創業者が増えることこそ、この国の未来を作るという観点から、私は現状を憂いている。だからこそ、何とか知恵を出し合いたいと願っている。